アクーニン氏の代表作と言えるのが、「エラスト・ファンドーリンの冒険」シリーズの推理小説です。19世紀末を舞台に、主人公の美男子エラスト・ファンドーリンが、国際的陰謀組織や敵国のスパイ、誘拐犯など、さまざまな相手と対決。事件を解決していきます。
シリーズの特徴として、1作ごとに古典的推理小説の特徴的なフォーマットを踏襲しているそうです。例えば「トルコギャンビット」はスパイ小説、「レヴィアタン」は豪華客船上での密室(?)殺人といった感じだそうで。
語り手も、あるときは主人公の一人称だったり、対決する両者の視点で別々に描いたり、複数の登場人物の視点でバラバラに描写されていたり、と工夫されています。アクーニン氏は、一連の「文学プロジェクト」としてこういうやり方をとっているようです。
主人公ファンドーリンのキャラとして特徴的なのが、外交官として日本に赴任し、かなりの日本通になったことです。まあ、我々から見れば、「精神を落ち着かせるために」書道をしたり氷水に入ったり、「忍術」が使えたり、川で釣った魚を「日本風に」そのまま食べたり、いろいろ怪しいところがありますが。これは、アクーニン氏の知識がいい加減というよりも、ロシア人読者が対象なので、かなり誇張しているのでしょう。
※2018/02/20 2018年2月発表の最新作 第十五巻「別れを告げずに」 の解説を追加しました。
エラスト・ペトローヴィチ・ファンドーリン | 主人公。眉目秀麗・頭脳明晰。外交官として日本に赴任してからは忍術(!)も身につけ、悪党相手の格闘でも無敵の強さをほこる。ちょっとつめこみすぎヒーローですね。青い瞳に黒髪がチャームポイントだが、第一巻の事件で、こめかみだけ白髪で真っ白になる。なぜか賭けには絶対負けないという能力を持つ。自分の推理を解説する時に「第一に…、第二に…、第三に…」と根拠を列挙するのが口癖。 |
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マサ(シバタ・マサヒロ) | 日本に外交官として赴任したファンドーリンが横浜で拾ったもとヤクザの青年。ファンドーリンの従僕としてロシアについていき、空手や柔術を駆使して捜査を助ける。(第4巻以降) |
No. | 題名 | 原題 | 刊行 | 作品の舞台 | 内容 |
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1 | アザゼリ | Азазель | 1998 | 1876年・ロシア | 大富豪の息子の自殺を発端に、国際的な陰謀組織と対決。 邦訳 『堕ちた天使-アザゼル』 沼野恭子訳 作品社 2001 |
2 | トルコギャンビット | Турецкий гамбит | 1998 | 1877年・露土戦争下のプレブナ | 露土戦争の最前線で、ロシア軍司令部に潜入したトルコのスパイと対決。 |
3 | レヴィアタン | Левиафан | 1998 | 1878年・インド洋上の豪華客船レヴィアタン号 | パリで発生した殺人事件の犯人を、豪華客船の乗客から見つけ出す。 邦訳 『リバイアサン号殺人事件』 沼野恭子訳 岩波書店 2007 |
4 | アキレスの死 | Смерть Ахиллеса | 1998 | 1882年・モスクワ | 国民的英雄の不可解な死に隠された、巨大な陰謀を暴く。 邦訳 『アキレス将軍暗殺事件』 沼野恭子・毛利公美訳 岩波書店 2007 |
5 | スペードのジャック(中編集『特殊任務』) | Пиковый валет | 1999 | 1886年・モスクワ | 天才的詐欺師と、熾烈な騙し合いを展開。 |
5 | 装飾家(中編集『特殊任務』) | Декоратор | 1999 | 1889年・モスクワ | モスクワにやって来た切り裂きジャックと対決。 |
6 | 五等官 | Статский советник | 2000 | 1891年・モスクワ | 要人を次々に暗殺するテロ組織と対決。 |
7 | 戴冠式 | Коронация, или Последний из романов | 2000 | 1896年・モスクワ | ニコライ二世の戴冠式直前に起こった、幼い大公の誘拐事件を解決する。 |
8 | 死の恋人(女) | Любовница смерти | 2001 | 1900年・モスクワ | 自殺志願者が集まる秘密クラブの謎を探る。 |
9 | 死の恋人(男) | Любовник смерти | 2001 | 1900年・モスクワ | 「死を招く女」にまつわる殺人事件を解決する。 |
10 | ダイヤモンドの馬車(第一部) | Алмазная колесница | 2007 | 1905年・モスクワ | 日露戦争下、破壊行為を行う日本のスパイと対決。 |
10 | ダイヤモンドの馬車(第二部) | Алмазная колесница | 2007 | 1878年・横浜 | 日本の要人を暗殺した忍者集団と対決。 |
11 | 軟玉の数珠 | Нефритовые чётки | 2007 | 1881-1900年 | 短編集。 |
12 | 世界は劇場 | Весь мир театр | 2009 | 1911年 モスクワ | 人気女優の周りで多発する殺人事件を解決。 |
13 | 黒い町 | Черный город | 2012 | 1914年 バクー油田 | 皇帝ニコライ二世をねらうテロリストを追う。 |
14 | 水の惑星 | Планета Вода | 2015 | 1903年、1906年、1912年 | 中編小説集。「水の惑星」「一つの帆」「どこへ船を向けるか?」の三篇を収録。 |
15 | 別れを告げずに | Не прощаюсь | 2018 | 1917年 革命後の内戦下のロシア | 内戦下のロシアで、赤軍・白軍の諜報合戦に巻き込まれる。 |
番外編 | ただのマサ | Просто Маса | 2020 | 1920年代 日本 | ファンドーリンの従僕のマサが日本に帰り、自分の出生の秘密や、隠された黄金の謎を解く。 |
番外編 | ヤマ | Яма | 2023 | 1900年 | ファンド―リンとマサが、フォン・ドールン一族と世界支配をたくらむ巨悪の謎に挑む。 |
番外編 | 陰と陽 | Инь и Ян | 2006 | 1882年 モスクワ郊外 | ファンドーリンも登場する戯曲の脚本。 |
番外編 | シナリオ集 | Сценарии | 2006 | ※テレビ映画化された「アザゼリ」「トルコギャンビット」「五等官」のシナリオ集 | |
番外編 | ファンドーリンのモスクワ | Фандоринская Москва | 2008 | ※アンドレイ・スタニュコヴィッチ著。ファンドーリンが活躍した19世紀のモスクワの、名所その他を解説。 |
2023/06/12 番外編「ヤマ」 を公開
2020/08/30 番外編「ただのマサ」 を公開
2018/02/20 第十五巻「別れを告げずに」 を公開
2015/05/12 第十四巻「水の惑星」 を公開
2013/01/08 第十三巻「黒い町」 を公開
2012/09/11 番外編「ファンドーリンのモスクワ」を公開
2011/12/16 第八巻「死の恋人(女)」 第九巻「死の恋人(男)」 に挿絵を追加
2011/12/13 番外編「陰と陽」 を公開
2011/12/09 第十二巻「世界は劇場」 を公開
2011/11/16 第十一巻「軟玉の数珠」 を公開。 第七巻「戴冠式」 挿絵を追加